- Home
- 【期間限定公開】今だから問われる採用担当者の手腕 求職者の深層心理にアプローチを
日本を訪れた外国人が、「自国では考えられない!」と驚き称賛することが多数あるようです。街にゴミが落ちていない、飲食店の水が無料などが代表例でしょうか。なかでも、東京や大阪などを移動して観光を楽しむ方は、定刻に電車が発着することに感動すら覚えるとのこと。俗説ですが、世界で一番、電車の発着時刻が正確なのは日本のようです。
また、非常ボタンが押された、ホームドアにトラブルがあったなどで電車が遅延する際は、それがたとえ数分でも謝罪の言葉とともにアナウンスされます。私たち日本人はそれが普通だと思っていますが、海外の方にしてみれば「たった3分の遅れは遅れのうちに入らないだろう?」となるようです。
驚きと称賛の声を知らなければ、自国の素晴らしさに気づかない日本人も多いはず。もしかすると、今この文章を読んで認識した方もいるかもしれません。
これは、主体を人に置き換えても同じことで、自分の長所や短所は意外に自分ではわからないものです。友人や同僚のほうが“私”を知っているのかもしれません。
今回は、自分を見つめての転職、それに応じる採用に関して考えてみたいと思います。
自分がやりたいことは 心の奥に眠っているI?
ホールの元副店長、小松崎さん(仮称)が当社を訪れました。海外留学の経験がある方で、大卒後に中堅ホール企業に就職し、その聡明さからかスピード出世を果たします。しかし、残念ながら家庭の事情で退職。1年ほどして一段落し、職を探し始めたとのことです。まだ30代前半ですから、ホール企業に就職を望むなら引く手あまたでしょう。
しかし、小松崎さんはそれを良しとしませんでした。ホールで働くのではなく、中小企業を支援する仕事に就きたいの一点張り。やりたいことや目標が具体的に決まっているなら、私たちはそれを後押しするだけですが、話を聞くうちに疑問が湧いてしまいました。当社以外の人材エージェントも活用し、不動産やリゾート開発といった職種にも応募しているというのです。この行動と、中小企業を支援したいという言葉に、矛盾を感じざるを得ません。
もしかすると、業界や職種に意識が先行し、何をしたいのか、どうしていきたいのかが具体的なものではなく、漠然とした状態で転職活動を進めていたのかもしれません。
出会いと会話から生まれる win-winの関係
最近、とある企業Z社が新規事業の立ち上げメンバーの募集を始めました。色々と手探り状態なので、面白そうな人材は大歓迎という状況です。そこで、採用担当者と小松崎さんを引き合わせることにしました。
担当者は自社のことはもちろん、新規事業のことも詳しく説明。小松崎さんとしても興味がある内容だったようで、良好な雰囲気のまま話が進んでいきます。小松崎さんが、ホール勤務時にどんなことを意識していたか、学生時代に何をやっていたかなども話しているうち、留学したことも話題に。
「実は、弊社の新規事業は外国人の顧客獲得も視野に入れてまして、思案中なのです。留学経験を生かして企画を考えることは可能ですか? やってみません?」
「面白そうですね!」
と会話が弾み、面接ではなく企画会議のような格好に。結局、小松崎さんはやる気満々でZ社で働く決心をし、担当者も優秀な人材に巡り会えたことを喜んでいました。
私の「漠然とした状態で転職活動を進めていたのではないか」も正しかったようで、「新しいことに挑戦したい」という希望が心の底に眠っていたようです。求職者は「何となくこんなことをやってみたい」ではなく、本当にやりたいことが見つかるまで、自分の目で見て、体験することが重要なのかもしれません。
採用担当者が人材確保を左右 自社を選んでもらう工夫が必要
この件での立役者は、Z社の採用担当者で間違いないでしょう。会話の中に小松崎さんの長所を見つけ、自社の事業のどこにピースがはまるかを探し、本人も気づかない真の望みに触れ、的確にアプローチしたのですから。
今は、求人情報が多すぎて、求職者が判断しづらい時代。何を信じればいいか、何を基準に応募すればいいか、よくわからないという人が多いのです。そこでエージェントを頼るわけですが、希望の勤務地と給与を聞き、該当する会社を片っ端から紹介する企業もあります。「労働は金を稼ぐ手段。やり甲斐や喜びなどは求めない」と割り切っている人ならそれで十分なのでしょうが、そうでない人は仕事内容に納得する必要があるはずです。
そういったことを踏まえても、今回の手法は見習うべきでしょう。勤務地や給与に差がない企業を矢継ぎ早に紹介されるなら、自社を選んでもらう工夫が必要なのです。求職者本人が気づいていないチャームポイントを見つけだして認識してもらい、自社で活躍する未来像を思い描いてもらえれば、小松崎さんとZ社のような相思相愛になれる可能性が高いでしょう。
蛇足ですが、世界で一番、電車が遅延する国は日本のようです。日本の遅延基準は1分ですが、他国は5分や10分とアバウト。ですから「日本の電車は最も時間に正確なのに、最も遅延が発生する」というギャグのような話が出来上がります。自国や自分の真の姿を認識するのは、なかなか難しいようです。
筆者紹介:嶌田堅一(しまだ・けんいち)
キャリアコンサルティンググループ
マネージャー
大学卒業後、㈱パック・エックスに入社。人材紹介事業を10年以上経験、国家資格キャリアコンサルタントを取得。これまで2,000人以上の支援を行っている経験・実績豊富なアドバイザー。
※これまで掲載された「現場視点からみる業界の『人材課題』」のアーカイブをはじめ、マークが付いている「プレミアム記事(有料プラン)」は、https://www.yugitsushin.jp/category/premium/から閲覧できます。
RELATED ARTICLE 関連記事
-
2025.4.15
【期間限定公開】海で鯛を釣るか、漁をするか、 時代に即した採用方法はどっち?
- プレミアム記事
- 現場視点から見る業界の「人材課題」
-
2025.2.17
【期間限定公開】転職によって物価高を乗り越えるより 牛丼を手作り弁当に変える時代が到来!?
- プレミアム記事
- 現場視点から見る業界の「人材課題」
-
2024.12.16
人材確保はますます難しくなる傾向 採用強者は資金力以外に何が違うのか
- プレミアム記事
- 現場視点から見る業界の「人材課題」
-
2024.11.20
10月のホール企業採用熱 前月を上回る1.10ポイント
- 採用・転職
- 業界ニュース
-
2024.11.19
ホールに再就職したい人材は貴重 ブランク期間を埋める説明が功を奏す
- プレミアム記事
- 現場視点から見る業界の「人材課題」
-
2024.10.21
人材を平等に評価すること 人事を納得してもらうことが重要
- プレミアム記事
- 現場視点から見る業界の「人材課題」
- Home
- 【期間限定公開】今だから問われる採用担当者の手腕 求職者の深層心理にアプローチを