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- 【期間限定公開】今や中途採用の難易度は新卒採用並み 人材にマッチするアプローチが重要に
今回は、前置きなしで転職の事例をご紹介します。ポイントとなるのは、後述するX社とZ社、そして中途採用に対する考え方です。
数ヶ月前、転職相談に来た佐々木さん(仮称)。副店長として勤めているホール企業A社が、M&Aによりホール企業B社の傘下に入ったというのです。佐々木さんは「B社の社員としてこのまま働いていくか、転職するか」の二択で悩んでいました。
もちろん条件によって決断が変わってくるわけですが、提示されたのは「給与は前職と同等で1年間保証するが、その後は業績に応じて見直す」ことと、「転勤などの異動は当然ある」ことの2つ。佐々木さんは40代後半で妻子持ちなので、年収が下がらないことはありがたいのですが、1年後は不透明であることと転勤があることが引っかかり、悩んだ末に転職を選択しました。
働いていたA社は小規模ですが、佐々木さんはパチンコが大好きですしホールでの仕事には自信があるので、当然同じ業界をメインに職を探します。売り手市場ということもあってか、ほどなくして3社から内定が出ました。
まず、チェーン展開をしていて地元では超が付くほど有名なホール企業X社。前職と比べると年収は1割減の提示ですが、多くの人が「X社で働けるなら!」と即答するような条件です。それから、地元の小規模ホール企業Y社。年収はガクッと下がりますが、異動がないことが魅力です。最後が、飲食業界の上場企業であるZ社。年収は前職とほぼ同等で、ホール企業X社よりも高いことに衝撃を受けます。飲食業界は未経験の佐々木さんですが、副店長としてスタッフに指示を出していたことを評価しての待遇提示でした。
生活が苦しくなることを思えば、Y社はちょっと選べません。人気店を多数擁するX社か、それより年収の高い上場企業のZ社か、ここでも二択を迫られることになりました。
ホールで働きたくても 家族のことを考えれば…
佐々木さんには、パチンコ業界で働きたいという想いと業務に対する自信があります。しかも、X社は以前から認知していて、店舗運営の参考にしていた企業。若くて独身であったならZ社には目もくれなかったはずですが、今は守るべき人がいます。そこで、家族に相談することにしました。奥さんは、Z社が上場企業であるため世間体が良く、年収面でも魅力的であるため、こちらを選ぶべきという意見です。
佐々木さんは、その言い分はもっともで、X社を選ぶのは自分のわがままなのだと自分に言い聞かせ、Z社で働くことを決断。X社が提示してくれた好条件には心惹かれるものがあり、憧れも抱いていましたが、やむなく辞退するに至りました。
一方で、今までの採用条件の中でも「高待遇を提示した」と自負するX社の担当者は困惑しています。万全を期しての内定だったにもかかわらず、この結果だったのですから。
地元の小規模ホール企業Y社を大きく上回る待遇を提示したため、承諾は確実という認識。しかし、突如として異業種のZ社が現れたのです。予期せぬライバルの出現は、まさに寝耳に水だったことでしょう。
時代は大きく変化した パチンコへの偏見は希薄に
ホール企業と、そこに職を求める人材とで、企業のほうが立場が強いという時代がありました。「どうせ、この業界以外では働けないだろう」とか、「この条件なら入社しないはずがない」といった考え方が支配していたのです。
また、それと重なるように、他業界ではパチンコ業界にいた人材を軽んじる傾向がありました。「ホールで働いていた人に、自社の仕事が務まるわけがない」とか、「能力が低いからホールで働いていたのだろう」といった思い込みから、履歴書を見ただけで不採用にすることがまかり通っていたのです。
しかし今は、上場企業が良い条件を提示して迎え入れてくれる時代。以前お伝えしましたが、ハウスクリーニングやホテル業界が「ホールで働いていた人を紹介してほしい」とアプローチしてくることが珍しくありません。パチンコをよく知らず、昔のイメージのまま誤認するケースはいまだありますが、“多様性”を推進する企業は増加。人材難の昨今において、可能性を広げることの重要性が高まっているのです。
中途採用は個別対応の時代 人材に見合うアプローチを
他業界はおろか上場企業までもが競合となっている今、ホール企業の中途採用というミッションの難易度は新卒採用並みです。今回の事例、X社が佐々木さんを採用出来なかったことを踏まえると、2つの改善策が見えてきます。
1つは、給与。いくら「自社としてはMAXの提示」と言ったところで、Z社に劣っています。2社が同じ提示であれば、結果は違っていたはずなのです。
もう1つは、佐々木さんの家族が気持ちを後押ししたことを知らなかったこと。内定承諾においては、応募者にとって最大の理解者であるご家族の意見が非常に大きな影響力を持ちます。したがって、応募者本人の志望度を高めることは言うまでもなく、ご家族の共感や納得を得るための働きかけこそが、内定承諾へつながる重要な一手となるのです。
ようするに、ホールで働きたい求職者が入社に踏み切れない場合、給与や異動、家族の意向といったその原因を突き止め、要望に沿って不安や不満を解消してあげることが必要となります。労力はかかりますが、そういう時代になったのだと認識し、会社の方向性を変えていかないと、中途採用はますます厳しくなるのではないでしょうか。
筆者紹介:嶌田堅一(しまだ・けんいち)
キャリアコンサルティンググループ
マネージャー
大学卒業後、㈱パック・エックスに入社。人材紹介事業を10年以上経験、国家資格キャリアコンサルタントを取得。これまで2,000人以上の支援を行っている経験・実績豊富なアドバイザー。
※これまで掲載された「現場視点からみる業界の『人材課題』」のアーカイブをはじめ、マークが付いている「プレミアム記事(有料プラン)」は、https://www.yugitsushin.jp/category/premium/から閲覧できます。
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