2026.8.3

【期間限定公開】益々薄れるホールの給与優位性 求められる条件提示の創意工夫

社会や経済の仕組みが変わり、働き方に対する人々の意識や価値観も大きく変化しました。充実したワークライフの実現を求めて転職することがあたり前となり、未経験の業種へ果敢に挑戦する動きはますます活性化しています。人材支援の現場に身を置く私としても、世の中がものすごいスピードで動いていることを実感する日々です。

今回は、採用市場の各データや事例から見える現状と今後について考えていきます。

ホール初任給は着実に上昇も 若手採用は学歴不問に活路

厚生労働省が発表した「令和7年賃金構造基本統計調査-新規学卒者の所定内給与額(以降、厚労省初任給調査とする)」によると、2025年の全産業における大卒平均は26万2,300円でした。これに対し、同年に当社が実施した調査におけるホール企業(採用時の給与提示額:330社)の大卒平均は25万2,195円だったので、1万105円の差があります。全学歴の平均で見ても、全産業24万8,300円に対し、ホール企業は23万9,172円で、9,128円下回る結果でした。一方で、高卒ではホール企業が2万324円、短大卒でも2,422円上回っており、学歴によって明暗が分かれています。学歴不問の採用に、ホール企業の活路があるとも言えそうです。しかし、大卒での見劣りは、新卒採用に影響する可能性として冷静に受け止める必要があるでしょう。

当社調査における採用時の提示額と厚労省初任給調査における所定内給与のデータ性質の違い(諸手当含む・含まないなど)を踏まえても、ホール企業の給与が下回り始めたことがデータとして露わになったことは、言葉にするのが難しい、何とも言えぬ感情です。

なお、2026年のホール企業の調査(採用時の給与提示額:304社)では、全学歴平均が24万4,879円(前年比プラス2.4%)、高卒23万8,002円(前年比プラス4.6%)、短大卒24万8,032円(前年比プラス4.2%)、大卒26万1,869円(前年比プラス3.8%)という推移を示しています。

視点を変えて、日本の労働組合の中央組織である連合が公開した2026年春季生活闘争の第7回(最終)回答集計によると、平均賃金方式による賃上げ率は5.01%でした(出所:連合「2026春季生活闘争 第7回(最終)回答集計結果について」)。令和7年厚労省初任給調査における全産業・全学歴平均の前年比はプラス5.6%で、2025年春闘の賃上げ率5.25%を上回っています。つまり、令和8年(2026年)の全産業・全学歴平均も春闘の賃上げ率5.01%と同程度か、それ以上のペースで伸びている可能性もあるのです。仮にプラス5%の伸びとした場合、2026年の全産業・全学歴平均は26万715円前後となり、ホール企業の全学歴平均(24万4,879円、既に集計済みの実績値)はさらに下回って差が開いている、ということになります。

「目標の採用人数に届きそうにない」、「現場に影響が出てしまう」と、若手からベテランまで属性を広げて増員を図るケースが増えているのですが、人材の転職先選択肢も多様化し、競合性が増しているのが現状です。

他業の未経験採用条件に キャリア採用条件が負ける

先日、私たちの元へ40代の池山さん(仮名)が相談に来られました。「仕事人生の折り返しはパチンコ業界でもうひと花咲かせたい」といい、今すぐということではないようです。他業種に転職したものの、うまくいっていないのだろうか、と思い詳しく話を伺っていくと、その予想ははずれ、活躍されていました。

彼は中小ホールの店長だったのですが、諸事情により「可能性を模索してみよう」と他業種も並行して転職活動。そして、流通業のZ社から未経験であるにもかかわらず、ご本人の年収以上(業界店長平均よりさらに高水準)の待遇が提示され、私も聞き直すほどの内容でした。スタッフへの的確な指示や、効率を重視した動線・配置の構築など、彼がホール現場で培ってきたオペレーション管理能力やチームマネジメント力が、即戦力として高く評価されたのです。ホール企業の選考も受けていたのですが、給与条件でZ社とあまりにも差があり断念されています。このような背景で業界を選べなかった現実に、私は歯がゆいばかりでした。

このように、近年は主任や店長クラスの経験・実績のある人材の選考において、他業種の未経験採用の提示条件に、業界キャリア採用の提示条件が負けてしまうケースもあるのです。

条件提示にひと工夫を 個に歩み寄り未来を示す

他業種が池山さんの経験・スキルに即座に対価を払うような条件提示は、もはや特別な事例ではありません。未経験者に現職と同等かそれ以上の条件を提示する背景には、雇用の設計思想の違いがありそうです。他業種では、人材の流動化を前提とした、ジョブ型雇用(スキル買い)を意識した採用へと、シフトしている可能性も否定できません。一方、ホール企業の多くは長期雇用を前提とした、徐々に待遇を見直すメンバーシップ型雇用です。これは双方に無理を強いない採用のあり方で、納得して長く働き続ける事例も多いのですが、冒頭に述べたように人々の働き方に対する意識や価値観の変化によって、選択肢から外される割合が高まりつつあるとも言えそうです。

人材の流動化は、あらゆる業種に共通する時代の流れであり、歯止めをかけるのは難しいでしょう。これを裏返せば「多様な人材と出会えるチャンス」でもあります。候補者一人ひとりの働き方への価値観やキャリア思考を押さえたうえで、例えば、これまでの経験を即戦力として明確に格付けし、採用時の待遇をジョブ型の発想に近づけるなど。そうした個への歩み寄りを積み重ねることが、選ばれる企業への一歩になるのではないでしょうか

 

 

筆者紹介:嶌田堅一(しまだ・けんいち)
キャリアコンサルティンググループ
マネージャー
大学卒業後、㈱パック・エックスに入社。人材紹介事業を10年以上経験、国家資格キャリアコンサルタントを取得。これまで2,000人以上の支援を行っている経験・実績豊富なアドバイザー。

※これまで掲載された「現場視点からみる業界の『人材課題』」のアーカイブをはじめ、🔒マークが付いている「プレミアム記事(有料プラン)」は、https://www.yugitsushin.jp/category/premium/から閲覧できます。

 

このページの内容をコピーすることはできません