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- 【期間限定公開】適応障害を理由とする退職者が増加 真摯な対応をした企業の好例とは?
適応障害という言葉が広く知られるようになったのは、2004年くらいから。体調を崩していた皇太子妃雅子様(当時)が医師に適応障害と診断され、各種マスコミが大きく取り上げたことがきっかけだと言われています。
「日常生活の中で、何らかのストレスが原因となって心身のバランスが崩れ、社会生活に支障が生じた状態を言う」とされており、入学や入社、異動、転勤などの環境変化にうまく対処できなかったときに発症するようです。雅子様は、バッシング報道が目立つ中、2001年12月に愛子様を出産されました。環境が大きく変化したわけで、私たちが想像出来ないくらいのプレッシャーがあったのでしょう。
一般社会に目をやると、適応障害と診断される人は年々増えています。某シンクタンクによると、2018年と2022年を比較すると約1.7倍になっており、厚労省は精神疾患の患者数しか公表していませんが、2022年度の精神障害による労災認定は710件と過去最多のようです。私としても、これを理由とする退職者が増加していると感じています。
今回は、適応障害と離職、ホール企業の対応について、事例を見ながら考えてみましょう。
適応障害で退職した後 同企業に再就職を希望 !?
先日、当社に相談に訪れた20代の橋本さん(仮称)。職歴やスキル、仕事に対する想いなどを詳細に話してもらったのですが、どうにもスッキリしせんでした。
新卒で中堅ホール企業のA社に就職し、たまたま地元の店舗に配属されます。仕事や職場環境が肌に合ったのか、とんとん拍子に出世。わずか数年で副店長になり、周りの期待も膨らむばかりだったようです。そして、橋本さんに新店舗のオープンメンバーの辞令が出ます。人生で初めて地元から遠く離れるのですが、さらなる昇格のチャンスのためと異動を快諾。ほどなくして実際に働き始めたのですが、想像とは違う現実が待っていました。
まず、店舗の方針はこれまでと全く異なっていて、働きにくさを感じます。だからといって、自分のやり方を押し通せるほどの権限はありません。言葉やイントネーションもこれまでと違い、ほかのスタッフと馴染めないことも何となく感じていました。友達はおろか、知り合いすらいないので、酒の席で愚痴をこぼすことも出来ません。ストレスのはけ口がなかったのです。
モチベーションは下がる一方で、職場に行くのが苦痛となり、病院で診てもらうと適応障害だと言われました。そして、本社にすべてを話し、休職させてもらうことに。
A社の対応はというと、異動した職場環境に馴染めなかったことがストレスの主な要因なのは明白ですから、本人にとってストレスなく働きやすいであろう以前所属していた店舗への再異動を提案。そしてリフレッシュ期間を経て復職したのですが、「モチベーションが上がらない」と早々に退職してしまったのです。
その後、異業種に転職したものの長続きせず、当社に相談に来られたのはこのタイミング。退職理由は、前職同様「職場環境に馴染めなかったから」でした。
ヒアリング中にホール在籍時のことを楽しそうに話していたので、「A社への再就職を考えていますか?」と質問すると、「はい。考えています」と即答。否定はしませんでしたが、退職経緯を踏まえ“実現するのは困難な希望”であることをお伝えしておきました。
橋本さんからは 疑念が生まれてしまう
適応障害は鬱病ほど重くなく、特定の原因(ストレス)による一時的なもので、その原因が取り除かれれば症状が消失するのが一般的です。女優の深田恭子さんが治療に専念するために活動を休止し、数ヶ月後に復帰したのは有名な話でしょう。
一方で、今回の橋本さんのケースは正直、思うところがありました。「モチベーションが上がらないことを理由に退職したこと」自体については、極端にネガティブになることや、そういう時もあると理解できます。しかし、理由はどうあれ早々に退職し異業種へ転職したのは、会社の寄り添った配慮に応える努力をしなかったことにほかなりません。なおかつ、平然とそのホール企業への再就職を口にするのは、自分の行動について相手(会社)がどう感じるかを考えていない言動ですから、そもそもの“意識”や“思考”に難があるのではないか、と感じずにはいられませんでした。
企業は誠実にストレスに対応 では転職をする人材は ?
今回のA社の対応は人材に寄り添ったもので、適応障害に対して会社として出来る限りの努力をしたという認識です。ほかにも、メンタルヘルス対策の制度や体制を整備するなど人材のメンタル面をサポートするホール企業が多々あり、ストレス社会に真摯に向き合う姿勢には頭が下がります。
その一方で、「あまりにもストレス耐性がなさすぎないか」と感じることがあるのも事実です。A社のように“去る者は追わず”という対応がベターになるのかもしれません。
人材側から見れば、転職は「新たなキャリアを構築したい」「環境を変えたい」など、背景にあるものは十人十色で当然です。しかし、どんな理由であっても、“去り方に誠実さを欠いてもいい”ということにはならないはず。
他業種へ転職し、馴染めずに「前の職場のほうが良かった」という事象は後を絶ちませんが、「精神的な理由で辞めた職場へ戻りたい」というのは私の転職支援史上、初めてのことでした。
会社と人材、お互いが思いやりの心を持って歩み寄る姿勢が、ストレス社会における潤滑油になるのではないでしょうか。今回の事例で、改めて感じることとなりました。
筆者紹介:嶌田堅一(しまだ・けんいち)
キャリアコンサルティンググループ
マネージャー
大学卒業後、㈱パック・エックスに入社。人材紹介事業を10年以上経験、国家資格キャリアコンサルタントを取得。これまで2000人以上の支援を行っている経験・実績豊富なアドバイザー。
※これまで掲載された「現場視点からみる業界の『人材課題』」のアーカイブをはじめ、マークが付いている「プレミアム記事(有料プラン)」は、https://www.yugitsushin.jp/category/premium/から閲覧できます。
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