- Home
- 業績好調な店長の胸の内 心も順風満帆とは限らない
営業先から帰る際に公園のベンチでひと休み。ふと足元に目をやると、アリの隊列がパンのカケラを運んでいました。人間であればどれくらいの大きさなのか、いずれにしてもチームワークのなせる業です。そして、アリには興味深い習性が。彼らは「迷子」になると、同じ巣の仲間が通りかかるのをじっと待つそうです。出会うと、互いの触角を重ね合わせて仲間かどうかを確認し合い、無事に巣へと連れ帰る。固有のコミュニケーションで孤立を防ぐ仕組みがあり、組織全体がひとつに統合された超個体ともいわれるようです。
かたや、私たち人間の社会では、小さな組織であっても、孤立してしまう人がいます。今回はある優秀な店長の事例から、目に見える実績の裏に隠された心の揺らぎについて考えていきたいと思います。
順風満帆に見える人材 表に出さない葛藤
先日、30代の店長、加藤さん(仮称)がキャリア相談に訪れました。これまでの経歴を伺うと、大型の新店立ち上げをいくつも成功させ、赴任した店舗を高稼働店に育成する、社内でもエース店長と呼ばれているだろう実績の持ち主でした。彼が在籍するZ社からの評価、期待が大変高いということは、待遇からも十分にうかがえます。長らくこの仕事をしていますが、店長という職位では相当の高水準です。社内では一目置かれる存在でしょうし、客観的にも順風満帆なキャリアの歩みに映りました。
ところが、面談の席について経歴を伺った後、加藤さんは深くため息をつきながらこう漏らしました。「今の待遇に不満はない。けど、いつの頃からか、ここで頑張り続ける意味が見えなくなってしまった」と。詳しく話を伺っていくと、社内では幹部、上位ポストにと期待されることは大変有難いことではあるのだが、そこには上がりたくない、と言うのです。店長として実績を上げ、高い評価を受けて、次期幹部候補に位置づけられている人間が、そのポストやキャリアに魅力を感じていない。そこに向おうとしていない。理想(自分の目指したい将来イメージ)と現実(自分の目に映る環境からの将来イメージ)のギャップに悩んでいると感じ「会社に対して何かしら思うところがあるのではないか?」と聞くと、次のステップとなるポストや組織について、加藤さんの目には、しがらみに縛られた不自由な管理職に映っていました。
彼が最もやりがいを感じている、店舗運営の切り盛り、お客様、現場スタッフと向き合う仕事とは程遠く「あんな風になりたいとは到底思えない」と。Z社で自分の能力を発揮して貢献したいと想う一方で、先のキャリアビジョンが描けず、閉塞感を抱き葛藤。黙々と業務をこなす状態に陥り、夜な夜な転職情報を眺める日々が続いていた、と打ち明けてくれました。実績を上げれば上げるほど、自分の望まない未来へと近づいていく。周囲が次の幹部は彼しかいない、と盛り上がっている裏で、本人は月日がたつほど悩みが深くなり、盛り下がっていたのです。
放置が人材を孤立させ ある日突然はじけ飛ぶ
今回の加藤さんのようなケースは、支援の現場では決して珍しいことではありません。会社側からすれば、加藤さんは手のかからない優等生です。手厚くフォローすべき対象は、業績が振るわない店舗の店長や、経験の浅い若手社員に向きがちです。限られたリソースの中で、順調に回っている店舗への介入が後回しになるのは、ある意味で組織の構造的な問題とも言えます。しかし、そこから生じる「放置」が、人材の心に「自分はただ数字を上げるための存在なのではないか」という疑念を植え付けてしまいます。社内での立場が上がるほど、弱音を吐いたり、本音でキャリアの不安を相談できる相手は少なくなってきます。上司からはもっと大きな数字を期待され、部下からは頼れるリーダーとして見られる。そうしたプレッシャーの中で、加藤さんもまた自分の本当の気持ちを飲み込み、ひとり孤独を深めていました。
会社が順調だと満足し、次のポストへの準備を進めている間に、その有能な人材が自社のビジョンや、その組織で働き続ける意味を自問自答し始める。そして、ある日突然、辞表が提出される。組織は驚きますが、それは突発的な出来事ではなく、積み重なったコミュニケーション不足の果てに起きた必然の結果ともいえるでしょう。
順調に見える人材とも ビジョンを重ね合わせる
逃したくない人材を失わないためには、成功している時、順調に見える時こそ、本人のキャリア観に踏み込んだ手厚いフォローが欠かせません。求められるのは、評価面談とは異なる軸での定期的な対話です。そこでは、会社の業績や目標達成率の話題を一旦脇に置き、本人が何のために働き、この先どうなりたいのかをフラットに聞く場を設けるべきでした。例えば、加藤さんなら、現場のスペシャリストとして後進を育てるエグゼクティブ店長のようなキャリアパスを提案するのもひとつの手です。あるいは、業務範囲を見直す余地もあるはずです。会社が描くビジョンと、本人が描くビジョン。このふたつをテーブルに並べ、どこで重なり合うのかを根気よく探るプロセスが必要だったのでしょう。
冒頭で触れたアリは、迷子になった仲間を見つけると、互いの触角を合わせて確認し合います。私たち人間の組織における触角とは、まさに「対話」のことです。目標を見失い、進むべき道に迷っている社員の心の揺らぎに気づき、対話という名の触角を重ね合わせることで、再び同じビジョンを持つ仲間として迎え入れることができるはずです。
この人は大丈夫、という先入観を一度横に置き、ひとりの人間として彼らの声に耳を傾ける。そんな時間を意識的に作ることが、結果として企業の未来を支えるかけがえのない人材を守ることにつながると改めて感じています。

筆者紹介:嶌田堅一(しまだ・けんいち)
キャリアコンサルティンググループ
マネージャー
大学卒業後、㈱パック・エックスに入社。人材紹介事業を10年以上経験、国家資格キャリアコンサルタントを取得。これまで2,000人以上の支援を行っている経験・実績豊富なアドバイザー。
※これまで掲載された「現場視点からみる業界の『人材課題』」のアーカイブをはじめ、マークが付いている「プレミアム記事(有料プラン)」は、https://www.yugitsushin.jp/category/premium/から閲覧できます。
- Home
- 業績好調な店長の胸の内 心も順風満帆とは限らない

パワーズが破産手続き開始決定受ける(福岡)
セントラルグループ運営の各事業が高知ユナイテッドSC「ドリームパスポート」に全面協賛
7年の刻を経て、いざ大海原へ出陣!「モグモグ風林火山 大海戦の巻」
ひぐちグループが、水難事故から命を守るプロジェクトへの協賛を継続
1曲即発!電音速でぶちアゲろ!!「Pドラムde 電音部 超ドラ熱4500ver.」