2026.5.22

省力化の裏で失われた大切なモノ 現場に不可欠な「ユーザー視点」

私が若かりし頃に父から聞いた話。かつて駅の改札横には伝言板があり、急な待ち合わせの変更などがあれば、伝言板を駆使して対応していたようです。どうやって落ち合うか?と、やきもきしながら想像力を働かせた、ということも。そして、無事に落ち合えた時の喜びは、ひとしおだったとか。煩わしいと感じる手間は、相手を想う時間でもあり、感性を磨く体験でもあったのでしょう。時は流れ、今やスマホひとつで簡単に意思疎通できる便利な時代。このような体感を得ることは、もはや難しくなりました。

私たちのパチンコ業界も、技術革新や高度なシステムの導入によって、ホール現場の効率化は劇的に進みました。しかし、利便性を突き詰め、省力化が進めば進むほど、本来大切だったはずのユーザー視点や現場の体感が失われてはいないか。日々の採用支援の現場で、そんな事象をひしひしと感じる機会が増えています。今回は、あるホール企業の相談事例に隠れた課題感から、深掘りしていきましょう。

ホール現場が失いつつある、ユーザーとしての感覚

先日、ホール企業A社から「パチンコ・パチスロが好きで、現役で遊技しているホール役職者を積極的に採用したい」という相談を受けました。日々さまざまな採用オーダーをいただきますが、求める人物像のド真ん中に、遊技習慣を据えるというリクエストは、かなり珍しいことです。その背景を伺うと、なるほどそこに行き着くか、という深い納得に変わりました。

営業戦略を立てる上で、現在のスタッフは遊技経験が乏しく、ユーザー視点での話をしてもピンとこない。遊技機運用の議論になっても話についてこられない。人材マネジメントやオペレーション管理に長けた有能な社員は多いものの、いざ営業戦略の話になると、どこか別世界の人と話しているような違和感を抱いてしまうというのです。閉店後の作業や自分の受け持ち業務が終わった社員が、上長の承認を経て、自店に設置された新台や興味関心のある遊技機を試打し、挙動や打感に一喜一憂する。そして、その体感をお客様との会話に役立てる。かつて、現場でよく見られたこのような光景は、今となっては懐かしい昔話と言えるかもしれません。

業務負荷や残業が減り自由時間は増えたものの、個人で遊技をする習慣が喪失し、日常的な実機体験に基づくユーザー視点の欠如こそが、A社の悩みだったのです。これはA社に限った話ではなく、私自身も採用支援の現場で痛感している現実です。転職相談に来られる方のなかで、現在進行形で遊技をしている方は、肌感覚ではありますが10人のうちわずか2〜3人程度。つまり、ホール現場の最前線に立つ方々の多くが、現役ユーザーとしての体感を持たないまま業務にあたっているとも解釈できます。

データでは見えない 現場の熱量と来店客の顔

なぜ、現場の人間の足が遊技から遠のいてしまったのか。この議論にはさまざまな意見があるのでしょうが、パチンコが手軽な遊びではなくなり、触れづらくなっていることは否定できません。自己研鑽として遊技機に向き合うこと自体の敷居が高いのです。だからこそ、業務の一環として意図的に触れるアプローチが重要になってきます。

例えば、周辺競合店に足を運び、稼働状況を調査する「頭取り」という業務が、かつては、ほとんどの現場で行われていました。そして、その外出業務に、ちょっとした憧れを持つ若手社員やローキャリア層は少なくなかったのです。競合店へ赴けば、嫌でも最新機や話題機が目に飛び込んできます。そこで刺激を受け、自分ならどうするかと動機付けられる。その体験で得た感覚は、スタッフ間で共有され、自然と遊技機の談話に花が咲く。そんな好循環が、かつての現場には確かに存在していました。

画面上に示されたデータで、店内の盛り上がりや遊技するユーザーの反応を視覚的に掴むことは不可能でしょう。実際に足を運び、その場の空気を肌で感じて初めて理解できることがあるはずです。データは何が起きたかという結果は教えてくれますが、なぜそうなったのかという理由は、現場の体感のなかでこそ発見できます。実体験でしか得られない遊技機固有の魅力を、体験がない人間が画面上のデータだけで読み切り、自社の強みを活かした独自性のある営業を具現化させるのは、そう簡単なことではないのです。

アナログ時代の体感力が今、求められている

先ほど触れた、頭取りは一例ですが、効率の観点から言えば、最新のデータシステムには到底及びません。しかし、半ば強制的にユーザー視点やリアルな動向を体感させるという教育的な側面が、今思えば、備わっていたのかもしれません。自分の足で他店へ赴くという体験を繰り返すことによって、「見る目」を育んでいたはずなのです。

そして、その目が捉えるのは、客数や出玉だけではありません。来店客の属性、反応や動向、施策内容や意図、販促物の狙いや運用のさじ加減まで、空間全体を観察する視点です。これらの観察に基づく多角的な仮説と検証の繰り返しが、いわゆる現場感です。これは、遊技機の運用のみならず、接客やプロモーション企画といった付加価値を組み立てるうえでも、欠かせない感覚と言えます。現代のパチンコは利便性が高まる一方で、ユーザーの心の機微に触れる機会を自ら手放しているのかもしれません。

かつてのアナログ時代を支えてくれた『体感』と、現場にしかない『熱量』の要素を忘れてはいないでしょうか。失われたもののなかにこそ、大切な商売の本質が隠されていると、支援現場の最前線から改めて感じています。

 

筆者紹介:嶌田堅一(しまだ・けんいち)
キャリアコンサルティンググループ
マネージャー
大学卒業後、㈱パック・エックスに入社。人材紹介事業を10年以上経験、国家資格キャリアコンサルタントを取得。これまで2,000人以上の支援を行っている経験・実績豊富なアドバイザー。

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