2026.3.12

本当に求めていることは何か?  「効率」は時に落とし穴になる

公的機関が約5年おきに実施している「出生動向基本調査」の2021年の発表値によると、恋愛結婚の割合は74.8%、見合い結婚は9.8%。以前は全く異なっていて、調査を開始した1935年は恋愛結婚が13.4%、見合い結婚が69.0%でした。

お見合いは鎌倉時代の高貴な人に始まり、江戸時代には庶民に広まったそうです。仲介人が男性を連れて女性の家に行き、直接会わせるパターンから、釣書(つりしょ)を相手に見せて合否判定をしてもらってから会うように変化していきます。現代の釣書は、顔写真付き自己紹介の書類で、家族構成、身長、体重、趣味なども書かれています。これを見て「会ってもいい」となれば、実際のお見合いへと進むわけです。

鋭い人ならお気づきでしょうが、採用における企業と求職者の関係によく似ています。今回も、事例を元に考えていきましょう。

希望要件が不一致でも ニーズは合致している

野村さん(仮称)は40代のホール店長です。長年勤めてきた会社が、組織の若返りを図るという方針を受け、今後のキャリアに悩み、当社に相談に訪れました。同業へ就職出来ればベストですが、他業界も視野に入れているとのこと。また、家族のことが頭にあり、自宅から通える範囲の職場を望んでいるようです。

じっくりと話を伺うと、私なりに野村さんの性格や特長がわかってきました。端的に言うと真面目で勉強熱心。部下への接し方などで迷いが生じたときは、自分で本を買い、研究し、解決します。責任感が強くリーダーシップがあり、人当たりも良く、店長の鏡のような人物でした。

そして、野村さんは、今の会社への感謝を口にします。「小規模ですが、だからこそ知恵を出し合って、いろいろな挑戦をする必要がありました。大変ですが楽しくもあり、このような経験をさせてくれてありがたかったです」と。この“挑戦”こそが、彼の働く意味であり、やりがいなのだと感じました。

私は、野村さんにマッチする企業を考え、中堅ホール企業のA社に履歴書など、選考に必要な書類を見せることにしました。しかし、A社が希望する人材は若手の役職経験者。企業・人材双方の求めているニーズに合致する要素は多分にあったのですが、その時点では、面接に至りませんでした。

書類上ではわかりにくい 会うことでみえる魅力

そこから少々の期間を置いて、A社から相談を受けました。内容は、「もっと積極的に採用したい。良い人材はいないか」というものでした。そこで、野村さんを再度推すと、「やはり会って判断したほうがよいかな」と、面接の機会を頂けることになったのです。

一方、野村さんは、その間にも他企業の選考を進めており、勤務地や給与など、希望条件をクリアした他業界の数社から内定を得ていました。つまり、転職先を他業界に決めようか、心の整理をしているタイミング。転職活動の最後の面接で、悔いを残せない重要なものなのです。

結果から言うと、野村さんとA社は相思相愛に。A社はホスピタリティを大切にする社風と堅実な営業が特長で、人材育成も熱心。スタッフは活き活きと働いています。

面接を担当した営業責任者は、野村さんの現職での経験や仕事に対する考え、人となりを見て、「必要な人材だ」と感じたようです。自社の行動理念を体現している、よき手本となる、という高い評価でした。今後の組織プラン、課題をクリアしていくために求めていた人材。パズルの最後のピースが野村さんだったわけです。当初、予定をしていなかった店長候補として招き入れたいと、前のめりになりました。

対話だからこそ折り合う 効率の先にある「納得感」

野村さんは、A社の価値観や社風、営業責任者の考えや人となりに感銘を受け、入社して貢献したい気持ちで一杯になります。しかし、A社が展開する店舗はいずれも現住居とはまったく異なるエリア。家族のことを考え、葛藤していました。

これを救ったのが奥さん。「他業種の会社のことより、A社の方とのやり取りを、すごく楽しそうに話しているわよ。本当はA社で働きたいんじゃないの?」と背中を押したのです。これで野村さんは、気持ちの整理がつき、入社を決意。家族と話し合い、まずは単身赴任し、住居を整理した後で合流することに。

当初、「求めている人材層ではない」という理由から、野村さんと会わなかったA社。一方で、現住居の近隣を転職先選びの優先条件としていた野村さん。企業・人材ともに、希望要件とは異なる要素が含まれていたわけですが、実際に「会い」「見て」「話す」という手順を経たことで最高の結末になりました。まさに、出会うことの重要性を示す典型的な事例だったと感じています。

昨今、採用活動にAIを取り入れる企業も増えています。効率化の一環ではありますが、求職者の考え方や感情、奥底にある価値観までを正確に読み取ることは、AIにはまだ難しいでしょう。特に、「可能性を模索する状況」なのであれば、人と人とが直接向き合い、対話を通じた“折り合い”をつけるプロセスが、納得度の高い結果に結びつきやすいのです。履歴書や釣書に記載されているのは、その人のごく一部の情報に過ぎないのですから。

当初は乗り気でなかった両者が最終的にゴールインした姿は、お見合いの仲介役を務めたような心地でした。この“出会いの場”を提供できたことを、今、少しだけ誇らしく思っています。

 

筆者紹介:嶌田堅一(しまだ・けんいち)
キャリアコンサルティンググループ
マネージャー
大学卒業後、㈱パック・エックスに入社。人材紹介事業を10年以上経験、国家資格キャリアコンサルタントを取得。これまで2,000人以上の支援を行っている経験・実績豊富なアドバイザー。

※これまで掲載された「現場視点からみる業界の『人材課題』」のアーカイブをはじめ、🔒マークが付いている「プレミアム記事(有料プラン)」は、https://www.yugitsushin.jp/category/premium/から閲覧できます。

 

このページの内容をコピーすることはできません