【期間限定公開】責任あるギャンブル

1．責任あるギャンブルとは

最近、よく耳にする「責任あるギャンブル」ですが、これは2000年代に入って盛んに言われ出した術語です。Responsible Gambling（RG）の訳語で、ギャンブルによって引き起こされる問題を防ぐことです。Oh, EJ.& Jeong, C（2012）によると、参加者が過剰な時間や金銭を費やさないようにすることです。金銭的な問題に限定すべきでない等を指摘する研究もありますが、簡単にいうと「のめり込み防止」ということで、特に目新しい概念ではありません。

昨年、大阪府遊技業協同組合（大遊協）から大阪IRカジノ関係の調査依頼を受けた関係で、昨年末からRGに関する海外の研究をずいぶんと調べました。30編くらい読んでも、効果的なRGを実施しているという記述を見つけることができません。結局53編の研究論文を調べましたが、客観的なデータで成果を報告している論文を見つけることはできませんでした。特に詳しいわけではないのですが、国際誌の多くの論文で効果的な成功例がないと記載されているのですから、そうなのだと思います。

2．責任あるギャンブル研究

代表的な研究を紹介します。Ladouceur,Rら（2017）では、RGの先行研究を整理しています。そして、RGは、政府や業界事業者がギャンブルに関連する社会的リスクの発生率を低減することを目的としていると説明しており、RGのプログラムや取り組みの多くを裏付ける科学的根拠はないか、ほとんどないと論じています。

Smith,G. & Rubenstein,D（2011）は、RGのために政府やギャンブル業界が提供するギャンブル依存予防対策はほとんど進展していないと指摘しています。さらに、Williams,R.Jら（2012）は、プログラムの有効性を裏付ける実証的証拠がないにもかかわらず、多くの投機的なRG活動が実施され続けていると記述しています。

大阪府が成功例と初回しているシンガポールの例も、鶴田一ら（2017）は、シンガポールにおけるカジノ合法化のプロセスを時系列で検証しており、社会的リスクへの対応策について首相（Lee Hsien Loong）の「依存症患者の総数が増加する可能性は低い」という根拠のない主張で議論が終わっていることやエビデンスに基づく議論がないことを指摘しています。

全体的に、どの国も、経済的な効果に関しては具体的なエビデンスをもとに報告されていましたが、RGの社会的リスクに関しては、根拠のない取って付けたような説明に終始しているようです。日本での公営競技や宝くじを見ていると、積極的に社会福祉での貢献を謳っていますが、どんなに社会福祉をしてもギャンブルの社会的リスクが減ることはないので、どの国も似たり寄ったりというわけです。Ladouceur,Rら（2017）では、市民や諸団体の意見に基づく議論ではなく、科学的証拠（エビデンス）を評価することが不可欠であることを強調しています。未だに、日本の536万人がギャンブル依存の疑いがあると主張する意見などを見ますが、これらには、裏の目的があると考えられます（裏の目的がないのなら極めて不勉強）。

3．余談ですが・・・

余談ですが、研究者は、執筆論文の審査付き論文数やインパクトファクター（影響力の指標）や競争的研究資金の獲得などで評価されます。研究業績は、どれだけエビデンスに精通しているかを意味しています。競争的研究資金の代表が文科省の外郭団体学術振興会による科学研究費（科研費）です。この研究は、審査によって上位20％が採択されるものです。それらの情報はウェブで公開されていますので、気になる研究者を調べてもいいかもしれません。研究者の実態がわかるでしょう。

筆者紹介：早野慎吾（都留文科大学教授）
神奈川県出身　専門は言語心理学、社会言語学。1992年上智大学大学院文学研究科修了。常磐大学講師、宮崎大学准教授などを経て2012年より現職。言語とパーソナリティの関係を中心に研究していたが、通勤時、立川駅前で開店前のパチンコ店に毎日のように客が並んでいる様子を見て、パチンコ関連の研究を始める。現在、パチンコを中心としたギャンブル依存問題とＡＩによる人形浄瑠璃ロボットに関する研究を行っている。著書『首都圏の言語生態』、『パチンコ広告のあおり表現の研究：パチンコ問題を考える』など多数。
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