2023.5.12

ユーザーの嗜好やニーズに合わせた媒体の選択と情報発信の重要性

パチンコホールのマーケティング戦略において「エリア」や「地域密着」といったワードを見聞きする機会が増えてきた。

パチンコ業界の広告宣伝は、雑誌広告や新聞の折込みチラシなど「紙媒体」の利用率は減少し、今ではSNSなどネットの活用がメインになっている。また、広告宣伝規制の観点から掲載できる情報にはある程度の制限があることから、発信する情報にしても新台入替や店舗リニューアルなど、新規ユーザーの呼び込みというよりも既存ユーザー向けの内容を重視したものになっている。また、情報発信する内容としては、パチンコホール企業の地域貢献活動の一環として店舗周辺の清掃や募金活動をはじめ、地域の高齢者や障がい者を対象にした福祉活動などの紹介も数多くみられるが、そうした取組みが新聞やWebニュースなどのメディアで紹介される際には、記事中にパチンコホールの企業名と代表者が記載されるケースがほとんどを占める。

メディアで紹介されることよって確かにパチンコホール企業のイメージアップにつながるが、読者がニュース記事を読んだときにその企業の店舗が自分の住んでいる地域になることなどがわかれば、より親近感が湧いて記事内容も印象が深く残るはずだ。とりわけパチンコに興味がない地域住民にしてみれば、パチンコホール企業の名前だけではピンとこない可能性も考えられる。そうした視点で考えると、全国的にチェーン展開しているダイナムは、メディアでニュースとして取り上げられる際に企業名はもちろんのこと、取組みを実施した店舗の名称に加えて従業員の名前や役職なども記されている点が特徴的なところとなっている。

ダイナムの取組みが紹介されている地方紙。中日新聞滋賀版(左)と室蘭民報(右)

また、同社は自社の取組み内容を発信する際にメディアへの展開を積極的に行っており、記事内容も同社の独自性のある視点が感じられるものが多い。取り上げられるメディアにしても、Webニュースやプレスリリースのほか、特定の地域を対象とする「地方紙」での記事掲載も目立っている。確かに新聞はオールドメディアといわれるような時代にはなったが、それでも地方紙は「地元での圧倒的な普及率」「地域密着の話題を大きく取り扱う」「デジタル版が地域で拡散されやすい」といった点で、地域の高齢層を中心にまだまだ高いポテンシャルを秘めている。

地方紙への記事掲載でも、パチンコに興味がない読者層にしてみればパチンコホール企業の取組みの紹介でもサッと流し読みされる可能性も考えられるが、記事内容に独自性やユニークなものがあれば読者の目に止まり、店舗名ぐらいは記憶の片隅に残るはずだ。例えば、昨年4月に名古屋エリアで線虫を使った「がんリスク判定検査トライアル」が地域住民向けに行われた際に、パチンコホールが検査スペースの無償提供と検査活動の補助を実施したが、その取組みはSNSによる周知はもちろん、地方紙や電車広告、駅構内の広告などで大々的に紹介された。そこにはトライアルに協力した「サンシャインKYORAKU栄店」と「ZENT名古屋北店」の店舗名も大きくプリントされるなどし、実際にトライアルの参加者からは「昔はパチンコをやっていたが今のパチンコ店がこんなにきれいになっていることは知らなかった」「地元のパチンコ店でこうした取組みを行っていることは大変ありがたい」といった意見も聞かれたようだ。

周知のように新聞の読者層は特に若年層の減少が顕著になっている。新聞通信調査会のデータによると、60代以上では8割前後が定期購読しているのに対し、30代になるとおよそ3割しかない。 また別の調査では、紙の新聞を読んでいる人が20代では6.3%、10代ではわずか2.5%と低く、逆にインターネットの利用は10代で90.1%、20代では96%に達しているという。こうした状況を受けてパチンコホールも以前のようには新聞や折込チラシなどを使った広告掲載をしなくなったが、それでも高齢層がメインターゲットになっている地域などではそうした媒体がまだまだ利用されている。

やはりSNSなどの利用が多い今のパチンコホールの広告戦略は、既存ユーザーや一部のマニア層には直接的な効果があるが、スリープ層や新規層を誘引するためには、パチンコホールの現在の環境や店舗の取組みなどをまず知ってもらうことも必要だ。例えばスマート遊技機といわれてもスリープ層やパチンコに興味がない人たちにはそれがどのようなものなのか理解できず、パチンコホールが原則屋内禁煙になっていることさえ知らない人もいる。

メディアを使ってパチンコホール企業の地域貢献活動などの周知に取り組んでも、確かに即時的な集客効果という点では期待できないが、一度ぐらいは店舗を覗いてみようと思う人が少なくともいるかもしれない。業界は若年層の呼び込みやスリープ層の掘り起こしなどによるファン人口の拡大が喫緊の課題だが、地域性や客層、ユーザーの嗜好やニーズに合わせた発信媒体の選択や情報内容を改めて考えることで、解決につながるひとつの施策になりうるのではないだろうか。

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