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- 【期間限定公開】大衆と愛好者のどちらを顧客としたいのだろうか
マーケティングには、消費者行動という分野がある。消費者行動とは、「人がものやサービスを購入して使用するまでの過程の行動」を指し、物理的な行動だけでなく心理的な動きや変化も含んでいる。
消費者行動の観点から見ると、かつてのパチンコ・パチスロは「○○のついでに遊技場に寄って遊ぶもの」であった。○○には、通勤・通学、学校の講義や会社の昼休み、出張の乗り換え、日々の買い物など、消費者それぞれによって異なるのは言うまでもない。つまり、様々な消費者が来店することができたからこそ、大衆娯楽たりえたのであろう。
一方、いまのパチンコ・パチスロは「それ自体を目的として遊技場に行って遊ぶもの」と捉えられる。逆を返せば、パチンコ・パチスロを目的としない消費者は、遊技場へ寄らないことになる。この状態では、大衆娯楽は遠い彼方にあり、ある識者の言葉を借りれば『一部の愛好者』相手の娯楽に過ぎない。
パチンコ・パチスロの顧客数を増加させたいという声があるとして、どうやったら見込めるのだろうか。
残っていただいた顧客に、来店頻度を上げてもらい、遊技時間を長くしてもらう、というのが遊技業界における現状のマーケティング策となっている。鶏と卵の関係で言うと「違う!」という関係者もいるかもしれないが、遊技機の仕様や各種設備もその流れを汲んでいるように見える。だが、遊技業界がお題目のように唱える「大衆娯楽」への回帰という文脈からすれば、新規顧客の獲得や離反顧客の呼戻は必須項目と思われる。
しかし、言うは易く行うは難し、である、日工組が主導して行われている「KIBUN PACHI-PACHI委員会」以外では、あまり耳にしない。
20数年以上にわたって遊技場数が減少しているのが遊技業界の現状であり、遊技場数が減少するということは、それだけ、顧客がパチンコ・パチスロに触れる『タッチポイント』が減少することを意味している。自宅の近くとは言わないまでも、自宅や会社・学校の最寄駅や乗換駅に遊技場があることで、気軽にパチンコ・パチスロに触れることができた。
だからこそパチンコ・パチスロの存在理由であった「安・近・短」が成立していたとも言える。ところが、いまのパチンコ・パチスロは、遊技機の仕様や各種設備を見ても分かるとおり、かつての正反対である「高・遠・長」の様相を呈している。
供給側は需要側の、需要側は供給側の、それぞれ責任にしようとする悪しき習慣が遊技業界にはある。遊技場数が7,000軒を割らんとし、顧客数も1,000万人を割り込みんで久しく、市場規模も10兆円台からの回復が見込み薄という現状において、両者はパチンコ・パチスロの顧客を、大衆に戻したいのか、それとも愛好者に限定したいのか、その方向性が問われているように見える。
筆者紹介:伊藤實啓(いとう みつひろ)
株式会社遊技通信社 代表取締役。1970年生、東京都出身。北海道大学大学院経済学研究科修了後、財団法人余暇開発センター(現、公益財団法人日本生産性本部)にて「レジャー白書」の編集およびギャンブル型レジャー産業の調査研究に携わる。祖父が創業した株式会社遊技通信社に入社し、先代社長であった父の急死に伴って代表取締役に就任し、現在に至る。一般社団法人余暇環境整備推進協議会 監事、中小企業診断士および認定経営革新等支援機関、国士舘大学経営学部非常勤講師としても活動しているほか、静岡県立大学大学院経営情報イノベーション研究科博士後期課程にも在籍中。
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