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経営学の理論のひとつに、「ビジネスシステム」というものがある。
対象とする産業や企業がなぜ競争優位性を獲得しているかを、経営資源を一定の仕組みでシステム化したものだ。そもそも産業や企業に長期にわたる競争優位性は、『製品・サービスそのものの差別化』によるとされてきたものの、その後の研究によって『製品・サービスを生み出す仕組み』によってもたらされることが分かってきた。そのため、どのような仕組みになっているのかを解き明かす実証研究がなされている。
ビジネスシステムをもっと細かく提示すると、①どの活動を自社で担当するか、②社外のさまざまな取引相手との間にどのような関係を築くか、を選択したうえで、分業の構造、インセンティブのシステム、情報、モノ、カネの流れを、いかに設計するかである。似たような概念として「価値創造システム」というものもあり、どちらも競合に対してどのように差別化しているかがポイントとされる。なおビジネスシステムが競争優位性をつながるのかの評価基準としては、①有効性、②効率性、③模倣困難性、④持続可能性、⑤発展可能性の5つとされている。
つまり、自社だけなく原材料の仕入先や(最終顧客まで含めた)販売先がなければ、事業活動が収益に繋がらないのは自明の理であり、だからこそ「自社の担当範囲」と「取引相手との関係」の2つをどのように設計するかが重要となってくる。
ビジネスシステムの実証研究をひとつ紹介したい。西尾久美子という研究者が取り上げたのが、「花街」である。まず西尾は、地元京都の花街を対象とした伝統的制度を、ビジネスシステムの視点から分析した。京都花街が長期にわたって存続しているのが、芸舞妓の育成システムとお茶屋を中心とする取引システム(置屋、料理屋、その他関連事業者)を組み合わせた仕組みづくりにあり、事業環境の変化に適応しながら競争力を維持していることを明らかにした。さらに西尾は、京都花街と東京花街のビジネスシステムを比較分析する。京都花街にはお茶屋を中心とした分業構造とインセンティブ・システムがあるのに対して、東京花街は料亭が中心となった分業構造にあり、京都花街ほどのインセンティブ・システムが生じにくい。結果的に、東京花街は衰退の一途にあるのに対して、京都花街は環境変化に適応して継続できていることを明らかにした。
西尾の研究を通じて分かることは、産業内の各事業者が自分の活動範囲をきっちり担当することによって、取引関係上は緊張感を保ちつつも、それぞれが自分の能力をビルドアップさせていくことによって、ビジネスシステムによる差別化が可能となるということだ。
翻って、遊技場のビジネスシステムを見てみる。仕組みとしては、①遊技機メーカー等の仕入先から獲得した資源を遊技場に設置する、②その資源を遊技場独自のノウハウで運用する、③遊技客に提供した賞品を景品買取所で買い取ってもらう(「買い取らせる」ではない)、と捉えるのが一般的だ。※あくまでも現実を第三者的に見たもので、法的な意味合いではない。
そのなかで、遊技場がどの活動を自社で担当するかだが、上記の流れで言えば「②その資源を遊技場独自のノウハウで運用する」ことに尽きるだろう。もっと具体的に言えば、遊技機の運用方法や従業員による接客方法、賞品の品揃えなどが挙げられるが、そのなかでも前述した評価基準のなかでも特に③模倣困難性と④持続可能性の2点で大きな意味を持つ『遊技機の運用方法』が最も重視される活動であるのは言うまでもない。
しかしながら近年、遊技場および遊技場側の業界団体は、自社で担当すべき活動をいとも簡単に手放してしまった。自社で担当する活動範囲を狭くして、模倣困難性等を失った産業や企業は、取引先との関係にビジネスシステムを左右されるようになってしまうため、結果的に競争優位性を喪失してしまうだろう。いみじくも遊技場を取り巻く現状がそうなりつつあることを鑑みれば、遊技場経営のビジネスシステムを捉え直す、いい機会となるだろう。
筆者紹介:伊藤實啓(いとう みつひろ)
株式会社遊技通信社 代表取締役。1970年生、東京都出身。北海道大学大学院経済学研究科修了後、財団法人余暇開発センター(現、公益財団法人日本生産性本部)にて「レジャー白書」の編集およびギャンブル型レジャー産業の調査研究に携わる。祖父が創業した株式会社遊技通信社に入社し、先代社長であった父の急死に伴って代表取締役に就任し、現在に至る。一般社団法人余暇環境整備推進協議会 監事、中小企業診断士および認定経営革新等支援機関、国士舘大学経営学部非常勤講師としても活動しているほか、静岡県立大学大学院経営情報イノベーション研究科博士後期課程にも在籍中。
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