2024.3.26

【期間限定公開】公営と民営のイメージ

1.公営だから・・・

以前、オートレース(経産省)の「当たるんです」の宣伝広告に「公営だから安心安全」という文言が使われていました。オートレースの広告なのに「出玉何箱分?143万円当たるクジ!4096分の1で143万円!高確率な公営競技くじ」との文言で、パチンコのドル箱が積み重ねられた画像が使われていました。おそらく数千万分の1のジャンボ宝くじ(1等)などと比較しているのでしょうが、4096分の1を高確率と表現するところなど、突っ込みどころ満載の宣伝広告です。

公営なら、何が安心で何が安全なのかまったくわからないのですが、ギャンブル依存においても「公営だから・・・」という意見があります。宝くじなどは、売上金による社会貢献を積極的にアピールしていますが、社会貢献したからといって、ギャンブル依存の危険性がなくなるわけではありません。しかし、世間的なイメージは変わってきます。

公営競技に対して民営のパチンコがあります(スマートボールなどもありますが)。「公営だから」というのは、民営のパチンコと比較していることになります。パチンコに関しては、不正遊技機や反社会的勢力の問題もありましたが、これらは業界をあげて根絶の取り組みを行っています。公営競技でも八百長レースが問題になることがあります。1968年のオートレースにおける八百長発覚は大きな社会問題となりました。最近でも、2020年にレースでの順位を操作した見返りに現金を受け取ったとしてモーターボート競争法違反で元モーターボートレーサーが逮捕されています。不正問題は、公営競技でも起こりうることなのです。パチンコホールの店舗数から、確かに民営のパチンコの方が不正問題は起きやすいのでしょうが、だからといって公営競技に不正がないというわけではありません。安心安全なギャンブルなどこの世には存在していません。だから注意書きが必要なのです。

2.イメージ

大阪IRカジノ関連でもわかるように、ギャンブルには負のイメージが付きまといます。大阪IRカジノ反対の口実にされるギャンブル依存問題、金銭問題、環境問題などです。宝くじや公営競技は、そのイメージを払拭するため、積極的に社会貢献をアピールしています。利益の社会還元は、金銭的なイメージをよくする効果があります。それに対してパチンコ業界は、社会貢献のイメージは低いと感じています。令和6年能登半島地震に対してパチンコ・パチスロ産業21世紀会が1,000万円寄付し、pp奨学金が進学支援で500万円助成しています。また、都遊連が多摩地区の初等教育に140万円寄付して、子どもたちの教育支援をしていますが、社会貢献に対するイメージはそれほど高くなりません。このあたりが一枚岩でない民営の弱いところでもあります。

近年、パチンコ業界の経営者と話す機会が増えましたが、ほとんどの方は庶民感覚を持っているように感じます。私のような一介の研究者(しかも、みなし公務員)からすると、年収の差は明らかで羨ましい限りではあるのですが、私のことをそれなりに尊重してくれていることがわかります。ただ、そうでない方もいます。そこで、各都道府県の遊技協会での講演会に呼ばれた際は、「経営者のみなさんは、私のような一般庶民からすると、嫉妬の対象になる可能性があることを考えてみてください」、「あまりに豪勢な暮らしを見せられると、どんなに正当なお金であっても、庶民から巻き上げたお金でそうしていると考える人もいるでしょう」と言うようにしています。説教じみた内容で、本音では言いたくないのですが、言うようにしています。

ある経営者の身内の優雅な生活状況がインタビュー記事で語られていたのですが、その記事を読んだ知人から、「庶民から巻き上げた金でこれか。だからパチンコはダメなんだ」といわれました。実際は、どのような経緯で得た収入かなどは、その知人が知る由もないのですが、反感を買っていたことは確かなようです。公営競技で好成績の選手はどんなに高収入であっても、努力による成果として尊敬の対象になりますが、売り上げ金で関係者が豪勢な暮らしをしていたら反感を買うでしょう。それと同じ事がパチンコ経営にいえるのです。得られた利益が正当かどうかではなく、感情が先走る人も一定数いるのです。それがパチンコ業界のイメージなのだと思います。

パチンコ関連の研究をしていると、研究者からネガティブな意見をいわれることがよくあります。業界外の私でさえ、このような状況ですから、業界全体のイメージ改善が必要なのです。

願わくば、パチンコ業界に係わるすべての人が、プライドが持てる業界になりますように。

筆者紹介:早野慎吾(都留文科大学 教授)
神奈川県出身 専門は言語心理学、社会言語学。1992年上智大学大学院文学研究科修了。常磐大学講師、宮崎大学准教授などを経て2012年より現職。言語とパーソナリティの関係を中心に研究していたが、通勤時、立川駅前で開店前のパチンコ店に毎日のように客が並んでいる様子を見て、パチンコ関連の研究を始める。現在、パチンコを中心としたギャンブル依存問題とAIによる人形浄瑠璃ロボットに関する研究を行っている。著書『首都圏の言語生態』、『パチンコ広告のあおり表現の研究:パチンコ問題を考える』など多数。
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