2026.3.9

小型スーパーは採用の強力なライバル 定年退職制の整備が対抗手段になる!?

野菜、精肉、酒、弁当などをメイン商品とする小型の食品スーパーが好調です。人気は上々で、店舗数も売上も右肩上がり。それに呼応するかのように、採用に関してパチンコ業界の強烈なライバルとなってきていますので、今回は事例とともに考察していくことにしましょう。

井上さん(仮称)は、中小ホールの元店長。40代後半にして求職活動中なのですが、家族のことを想い、出来るだけ早く就職するために他業界にも応募しています。とはいえ、心の奥底では業界でもう一花咲かせたいと思っているようです。

しかし、内定が出るのは他業界ばかり。中でも「ぜひ、当社で店長として働いてほしい」と強くアプローチしてきたのが、小型の食品スーパー企業でした。

元ホール店長は スーパーが渇望する人材

その企業が提示した年収は、ホールの副店長クラス。勤務地は井上さんの地元で異動なし、仕事そのものはホールよりも簡単で肉体的な負担もあまりありません。年収面は若干の懸念材料かもしれませんが、店舗数は拡大傾向にあり、エリアマネージャーや本部スタッフといったポストの拡充も見込めるため、キャリアパスの見通しが明るく、総じて好条件と言えるでしょう。

企業側が井上さんを高く評価したのは、パチンコ業界で培ったオペレーション管理能力が小売業でも即戦力になると判断したため。また、警備員や清掃員といった多様なスタッフをまとめ上げるマネジメント能力もポイントになったようです。元店長として接客と管理の両面に精通していることが、安心して現場を任せられるという結論につながったのでしょう。

こうした考えを持つのは、何も特定の企業だけではないかもしれません。実際、同様の小売業の選考を受けたパチンコホール出身者の話も増えつつあります。店舗網を拡大し続ける他業界にとって、現場管理に長けた人材は今後、格好のターゲットとなり得るはずです。当業界としては、こうした人材流出の兆しに対して、今のうちから危機感を持って構えるべきなのかもしれません。

ちなみに井上さんは、本部が重要事項を決めてしまい、店長にはあまり裁量がないことを理由に辞退してしまいました。

定年まで働けない構造が 他業界に採用負けする一因

井上さんが転職先を決めるうえで、気にしていたのはもう一つあり、それは定年退職でした。

今や60歳定年にとどまらず、65歳までの定年延長や嘱託雇用も珍しくない時代です。長年培った知見を活かし、後輩へ経験を伝承するベテランの存在は、組織にとって本来なら代えがたい財産であるはず。これから先のキャリアを俯瞰したとき、定年を迎える瞬間の自分、そしてその後の働く姿を想像するのは、当然の思考と言えるでしょう。

しかし、私が多くの求職者と向き合う中で感じるのは、現場の方々が抱く切実な不安です。ホールスタッフとして定年まで勤め上げ、最終出勤日に仲間から労われる自分をイメージ出来ている人は、決して多くありません。むしろキャリアを重ねた方ほど、「いつかは後輩に道を譲らなければならない」という強迫観念に近い想いを抱えています。彼らは常に、自らの退職という影と隣り合わせの状況に置かれているのです。

こうした出口の見えないキャリア構造こそが、パチンコ業界が他業界に採用負けを喫する大きな要因の一つではないでしょうか。長年にわたり現場を支え、今も最前線で求められている現役世代にとって、定年までを見通せる「キャリアに対する安心感」は、もはや単なる給与条件以上に重い判断材料となり得るのです。

定年退職まで働ける環境は 採用の強みにもなる

当業界が新卒採用を始めた頃に飛び込んできた人たちは、あと数年で定年を迎えるはずです。企業としての準備は整っているでしょうか。退職金、継続雇用、雇用形態、その際の給与、社員寮の使用など、考えておかなければならないことが山ほどあります。法律で決まっているのですから、「当社には前例がない」では済まされません。

逆に言えば、これはチャンスとも捉えられます。井上さんは現在も求職中ですが、ホール企業で働きたい意志があり、一方で定年退職が少し気になっている状態です。このような人材が安心して働ける環境と制度を整えれば、他業界への流出を抑えられる可能性が高くなるでしょう。

ホールスタッフは若い男性、景品カウンターには若い女性が好ましいというのは、ユーザー視点としても理解出来ます。しかし、今時の小売業を見れば、清潔感のある初老の方々がスーパーの品出しやカート整理をしているのは珍しくありません。ホール企業ではそのような活躍・活用事例が少なく、「年齢を重ねたら退職する業界」というイメージが定着してしまっているのです。

業界全体でとなると話が大きすぎるので、まずは自社でロールモデルを生み出してみてはいかがでしょうか。定年まで安定して働ける環境があれば中高年層の離職は減るでしょうし、将来の安定を求める若年層にとっても魅力的に映るはずです。

そのためには、まず自社の過去の事例を整理しておくことが欠かせません。定年退職の先例があるならば、面接時にその具体的な事例を伝えられるように準備。先例がないのであれば、これからは「そのようなロールモデルを生み出していきたい。だからこそ、あなたに来てほしい」という真摯な説明が不可欠です。採用力を強化するために、自社の新しい形を作っていく。そこには一考の余地があるのではないでしょうか。

 

 

筆者紹介:嶌田堅一(しまだ・けんいち)
キャリアコンサルティンググループ
マネージャー
大学卒業後、㈱パック・エックスに入社。人材紹介事業を10年以上経験、国家資格キャリアコンサルタントを取得。これまで2,000人以上の支援を行っている経験・実績豊富なアドバイザー。

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