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- 【期間限定公開】旧態依然の制度と美辞麗句で時代に合わせた競合他社と戦えるか?
2020年2月、横浜に入港したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」での集団感染が報道されてから3年と10ヶ月、新型コロナウイルスはようやく収束に向かい、社会全体が平常に戻りつつあります。
この間、パチンコ業界は休業を余儀なくされ、一部のホールが営業を続けたことで、メディアを先頭に世間から大バッシング。そして、コロナ感染を恐れたファンは店舗に足を運ぶ習慣が薄れ、客離れによって売上が低下しました。その影響から閉店・廃業が増加。ホールは生き残るために人件費の削減を課題とし、社内体制を見直して対応する企業がいくつもありました。
そして、その体制を今なお維持している企業もあれば、時代に合わせて改変している企業もあります。二極化が進んでいるように見て取れるわけですが、今回はその是非を掘り下げていくことにしましょう。
長期間契約は絶対なのか?エリア採用にも柔軟性を
採用難を解消する手法の一つとして取り入れる企業が増加しつつあるのが、エリア採用です。例えば、「転勤したくない」や「働くなら東京23区限定で」といった人材の望みを叶えるものですが、企業としては間接的に人件費を抑えられる制度でもあります。地域を問わず働く人のほうが高給なのが当たり前であり、エリア限定の人の給与はその80%程度が相場。求職者に人気の採用条件でもありますが、制度運用のルールによっては成長意欲の低下や離職のきっかけなどネガティブに働くケースもあります。
ホール企業H社は、入社時にエリア限定かそうでないかを選択してもらい、数年ごとに契約を見直すというシステム。しかし、介護など家庭の事情からエリア限定を選択した人が、問題がなくなり、契約年数が満了する前に「全国どこでも働ける。もっと給料をもらいたいし、昇進したい」となることも想定出来ます。事実、会社に掛け合った人もいるのですが、H社の答えは「No」でした。「契約した期間を短縮することは出来ない」と。
会社の言い分はもっともで、落ち度はありません。ですが、その人は結局、転職(退職)を選択しました。物価上昇の背景もあり、「少しでも給与を上げたい。待つ時間がもったいない」と。社会情勢が目まぐるしく変わる昨今、長期間契約が足枷となってしまったと言えます。
安月給に奥さんがお手上げ 副店長が転職の相談に来社
もう一つ、事例を紹介しましょう。中堅企業のS社は、コロナ禍で評価制度を変え、主に役職者の評価を厳しくしました。特に、新たに昇進した人の手当てを少なくし、会社としては人件費の削減に成功したのです。が、当然、従業員から不満の声が聞かれます。
制度変更後の年収は店長ポストで約20%ダウン、副店長ポストなら約25%ダウンと大幅な変更となったようです。副店長クラスであっても、人によっては「ライバル企業の一般社員より、手取りが少ないのではないか?」といった声も。
私は長年、この業界で人材紹介事業に携わっていますが、把握する限りで、ここまで大きくダウンする給与制度の変更は2例目。S社一筋で働き、20代で副店長になった男性から「転職したい」と相談を受けたのですが、強く希望しているのは奥さんとのこと。「家族の時間を増やしてほしい」などは想定の範囲ですが、「給料が安すぎて生活出来ない」というのは副店長クラスではあまりない転職背景です。この業界は、高給を前提に働く人が多いわけで、S社の制度は根本的な魅力を損なうものとなってしまったように感じます。
その後わかったのですが、会社の方針自体、迷走に思えるものでした。従業員満足度を確認するためにアンケートを行うことは理に適っていますが、「会社に対する良い評価以外は認めない」といった空気感を醸し出しているので、個々の本音や想いを抽出することが困難。会社と従業員の距離がどんどん離れていることに気付かないまま、弱体化していく恐れもある状況なのです。
これでは、当社を訪れた副店長のような転職希望者が増える一方でしょう。読者の皆様には、同じ轍を踏まないよう注意していただければと思います。
なかなか聞けない本音を聞こうとする努力が重要
制度がきっかけとなり転職となった2例を挙げましたが、その一方で物価高騰という時代背景もあってか、賃金をアップさせるホール企業もあります。落ち込んでいた業績がだいぶ復活したこともあるのでしょうが、給与を10〜20%アップさせた会社、業界で最も待遇を良くすると目標を掲げた会社などが出てきました。
企業の営みにおいては、いかなる時も「人」が貴重な財産であることに変わりはなく、時代や情勢に適応すべく柔軟に変革していくことが大切であると改めて実感します。しかしながら、このような会社とは真逆に、「人」を蔑ろにしすぎたことで「人」で立ち行かなくなり、終焉を迎えた事例も多々見てきました。
会社を辞める人の多くは、本当の退職理由を言いません。円満退社であっても本音の部分は伝えずに去っていくことがほとんどです。なぜなら、自分にとって利がなく面倒くさいからです。辞めると決めた以上、波風は立てず良い関係のまま終わらせたいというのが、当たり前の感情と言えるでしょう。意見を伝えられるのであれば在籍中に申し出るはずですが、そのような環境でないから耐え忍び、「蓄積されてきたストレスから解放されたい」「心機一転、新しい環境でリスタートしたい」となるわけです。
もし、「最近、退職者が増えた」と感じるならば、従業員の本音を聞き出す努力をしてみてはいかがでしょうか。その上で、従業員のためになる新制度を生み出せれば、自然と会社は良くなっていくと思います。
筆者紹介:嶌田堅一(しまだ・けんいち)
キャリアコンサルティンググループ
マネージャー
大学卒業後、㈱パック・エックスに入社。人材紹介事業を10年以上経験、国家資格キャリアコンサルタントを取得。これまで2000人以上の支援を行っている経験・実績豊富なアドバイザー。
※これまで掲載された「現場視点からみる業界の『人材課題』」のアーカイブをはじめ、マークが付いている「プレミアム記事(有料プラン)」は、https://www.yugitsushin.jp/category/premium/から閲覧できます。
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