2023.9.1

今更聞けない?管理者のための労務管理講座 年次有給休暇②

Q 年次有給休暇を付与するタイミングが悩ましいです。例えばどうしても店舗が忙しいタイミングで「明日ですが有給休暇を取得したい」と言われるようなケースがあります。会社としては突っぱねたいのですが、労働者の請求通りに対応しなければならないのでしょうか。
A 会社には年次有給休暇の運用において時季変更権があります。したがって必ずしも請求通りの時期に与えなければいけないわけではありません。時季変更権とは具体的には「使用者は、労働者から年次有給休暇を請求された時季に、年次有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合(同一期間に多数の労働者が休暇を希望したため、その全員に休暇を付与し難い場合等)には、他の時季に年次有給休暇の時季を変更することができます。」とされています。時季変更権は明確な定義があるわけではなく、事業の内容、規模、労働者の担当業務の内容、業務の繁閑、予定された年休の日数、他の労働者の休暇との調整など諸般の事情を総合判断し裁判例などを基に時季変更権を認めるかどうかが決まります。また実務上、関連しますが就業規則で何日前までに申請するという指定をすること自体は認められています。

したがって今回のケースは時季変更権を行使するのではなく、就業規則で〇日前までに出さなければいけないというルールがあることなどを理由に拒否することが考えられます。一方で時季変更権を理由に永続的に取得を認めない、という対応はできませんので注意が必要です。

Q 年次有給休暇は一定期間で消滅すると聞きました。
A 年次有給休暇の請求権の時効は2年であり、前年度に取得されなかった年次有給休暇は翌年度に与える必要があります。ということは長年勤務している方でも付与日数の最大が20日であり、仮に2021年4月1日に20日付与(A)、2022年4月1日に20日付与(B)、2023年4月1日には20日付与(C)で一見60日になりそうですが、Aの20日が時効を迎えるので最大で保持しても40日が限度となります。

Q 年に5日以上は取得させなければならないと聞きました。これは全員でしょうか?そもそも年次有給休暇を5日以上保持していない従業員もいるのですが。
A 従来は仮に1年間で誰も年次有給休暇を取得していないという状況でもペナルティはなく、企業としての義務はありませんでした。しかし2019年4月から年次有給休暇の取得促進を意図し年5日の年休を労働者に取得させることが義務となりました。対象となるのは年休が10日以上付与される労働者なので、図表1の赤枠の方(週30時何以上労働者、週30時間未満でも週所定労働日数が5日以上または年に217日以上勤務している方、その他一定以上の労働日数や継続勤務期間がある方)です。

Q これまでは罰則はなかったということは、現在はあるということでしょうか?
A その通りです。例えば年に5日の年次有給休暇を取得させなかった場合の罰則は労働基準法第39条第7項違反、罰則規定労働基準法第120条により30万円以下の罰金です。かつ罰則による違反は、対象となる労働者1人につき1罪として取り扱われます。10人いたら大変です。

ただし、実務上は労働基準監督署の監督指導においては、原則としてその是正に向けて丁寧に指導し、改善を図っていくとされていますし、いきなり罰金とはなりませんが、監督指導はすでに散見されます。対応が必要なテーマといえるでしょう。

筆者紹介:佐藤拓哉(さとう・たくや)
株式会社アイエムジェイ 代表取締役
アイエムジェイ労務経営管理事務所 代表
厚生労働省認定 開業社会保険労務士  
東京都社会保険労務士会 新宿支部所属
パチンコ営業経験が豊富な人と組織の問題解決プロフェッショナル。

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