2023.8.25

休日数が採用の成否を左右する だからこそ見直したい企業体制

「朝三暮四」という四字熟語をご存知でしょうか。「学校で習った気はするけれど、何だっけ」と忘れている人がいるかもしれないので、簡単に説明しておきます。

意味は、「目先の違いにとらわれて、結局は同じ結果であることを理解しないこと」、もしくは「言葉巧みに人を欺くこと」です。飼っている猿にトチの実(どんぐり)を与えるのに、「朝に三つ、暮れ(夕方)に四つあげる」と言うと猿が少ないと怒ったため、「朝に四つ、暮れに三つあげる」と言うと猿が喜んだという、中国の故事に由来します。

1日にもらえるトチの実の数は同じなので、「猿は頭が悪いな」と思うことでしょう。それが一般的な感覚ですし、先ほどの1つ目の意味につながるわけですが、「猿は1日にもらえる数が同じと理解した上で、どうしても朝に四つもらいたかったのでは」と深く考える人がいるかもしれません。朝、多く食べるほうが、その後の運動量や消費カロリーを考えると理に適っていますし。

今回は、これを踏まえた上で、採用と企業体制について話してみたいと思います。

給与と働き方を天秤にかける最初に注目されるのが休日数

求職者が企業を選ぶ3大要素といえば、勤務地、給与、福利厚生などの働き方関連。勤務地は前提条件と言っていいものなので、実質は給与と働き方を天秤にかけて応募するかどうかを決めることになります。そして、働き方のなかで多くの人が最初に目をやり、かつ重要視するのが休日です。

例えば、競合企業が同じ求人媒体で人員を募集しているとします。A社は月に6日の公休、B社は同8日の公休となれば、求職者がどちらに応募したくなるかは考えるまでもないでしょう。もちろん、給与に極端な差があれば話は別ですが。

パチンコ業界の現状はどうかというと、当社保有のデータでは、1ヶ月あたりの公休は平均7・8日、実際の休日が平均7・3日。5年前は同7・2日と、6・3日でした。公休も実際に休める日も増え、ギャップも縮まっているのです。月に4〜5日しか休めない企業も数%ありますが、月の公休が8日以上の企業が約80%。ここが現在のボーダーラインになっていると言えそうです。

重要度を理解している企業は休日を増やしてアピール

もう少し、求職者のマインドを考えてみましょう。そもそもなぜ職を探すのかというと、スキルアップやキャリアアップを目指すというポジティブなケースと、拘束時間が長すぎるなど、今の職場に何らかの不満がある、もしくは閉店や倒産によって仕方なく、というネガティブなケースに大別出来ます。

いずれの場合も、「休日は少なくていいから、高給が欲しい」という人は今や少数派。特に家族がいる場合は、配偶者に「出来る限り、一緒にいる時間を増やして」と頼まれることが多いと聞きます。ワークライフバランス、プライベートの充実が重要視される時代ですから、大抵は給与よりも休日にウエイトを置き、より良い環境の職場を探すのです。

そして、それを理解している企業は業界を問わず、休日を増加し、採用力をアップしています。これが、パチンコ業界から他業界へ人材が流出する一因でもあるわけです。この業界にこだわって職を探す人は少なくなってきていますから、ある意味では当然と言えるでしょう。

「採用を有利に進められるよう、実際に休日を増やせるのか」というのが大きなネックなのですが、パチンコ業界でも実施している企業はあります。具体例を見てみましょう。

社員アンケートによる「朝三暮四」を実施!?

ある中堅ホール企業の話ですが、最近になって月の公休を1日増やし、それを求人媒体でアピールし始めました。しかし、年間の公休は5日しか増えていません。休みが毎月1日増えるのだから年間では12日増えないと計算が合わないのですが、実は特別休暇を減らしたのです。求職者はそのことを知りようがなく、月の公休が1日増えたことと、それが他社よりも多いことはよくわかりますから、魅力的な企業に見えるはずです。採用活動の戦術として、賢い方法と言えるでしょう。

別の企業では、1日あたりの勤務時間を少しだけ長くすることで、月の休日を1日増やしました。例えば、1日7時間30分、1ヶ月22日の勤務だったところを、1日8時間、1ヶ月21日の勤務とすれば、休日が1日増えます。合計勤務時間は165時間から168時間に増えてしまうので、早く帰れる日を何日か設けて3時間の差を調整するのです。

驚くべきは、これが社員アンケートによって大多数が賛成した施策だということ。毎日少しだけ長く働き、その分を休日に当てることを望んだわけです。1ヶ月の勤務時間だけを考えれば、実施の前も今も同じ。冒頭で「朝三暮四」の猿の肩を持つようなことを言ったのは、このためです(社員と猿が同等だという意味ではありませんので、誤解なきようお願いします)。社員の意志による施策ですから、社員満足度が高くなることは明白で、離職率は低下することでしょう。

人材不足の企業が、それを理由に1ヶ月の公休が6日といった状態で募集をかけても、8日がボーダーラインと言える今、なかなか応募は来ません。それなのに、求人の掲載媒体を増やして何とかしようとするケースをよく目にします。休日を増やせるよう体制を整え、それをアピールして募集するほうが、理に適っているのではないでしょうか。

筆者紹介:嶌田堅一(しまだ・けんいち)
キャリアコンサルティンググループ
マネージャー
大学卒業後、㈱パック・エックスに入社。人材紹介事業を10年以上経験、国家資格キャリアコンサルタントを取得。これまで2000人以上の支援を行っている経験・実績豊富なアドバイザー。

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