2023.1.23

社会言語学者がみた「パチンコのいま」

宝くじの恐ろしさ

1.ギャンブル等依存症対策基本法

ギャンブル等依存症対策基本法(平成30年法律第74号)の第一章・第一条には、この法案の目的が次のように書かれています。

この法律は、ギャンブル等依存症がギャンブル等依存症である者等及びその家族の日常生活又は社会生活に支障を生じさせるものであり、多重債務、貧困、虐待、自殺、犯罪等の重大な社会問題を生じさせていることに鑑み、ギャンブル等依存症対策に関し、基本理念を定め、及び国、地方公共団体等の責務を明らかにするとともに、ギャンブル等依存症対策の基本となる事項を定めること等により、ギャンブル等依存症対策を総合的かつ計画的に推進し、もって国民の健全な生活の確保を図るとともに、国民が安心して暮らすことのできる社会の実現に寄与することを目的とする。

これだけの分量が一文で書かれていることも驚きですが、この法律が施行された後も、宝くじや公営競技(公営ギャンブル)のコマーシャルが大々的に展開されていることは、さらに大きな驚きです。第一章・第一条で「国、地方公共団体等の責務を明らかにする」と明記されているのに、この状況ですから、国や地方公共団体の責務とは「無責任」でいることなのかと勘ぐってしまいます。

2.宝くじの実態

ギャンブル等依存症で問題にされる射幸心ですが、これには報酬期待効果が関係しています。報酬期待効果とは、簡単にいうと、そのギャンブルに参加することで、どの程度の勝ち額を期待するかです。私たちの研究グループは、2020年度から継続的にギャンブル依存に関する大規模調査を行っています。2020年度調査は、総サンプル数(総調査人数)42,880 人で、そのうち過去1年間にギャンブルをしたことがある人は14,780人(有効サンプル)でした。そこで、「5千円を使った場合、いくらの見返り(当選金・配当金等)を期待しますか」との項目を、各ギャンブルに対して調査しました。

まず、宝くじ(スクラッチを含む)について見てみましょう。調査サンプルでの、宝くじ参加者は10,088人です。宝くじの還元率は約46%なのですが、元金5千円未満(つまり元金割れ)になると考えている購入者はたったの18.9%しかいませんでした(図参照)。たとえば、年末ジャンボを購入して、5千円の元金を増やすためには、100分の1の6等(3,000円)を2枚以上、もしくは333分の1以上の5等(1万円)以上の当選をする必要があります。驚くべきは、数千万分の1しか当選しない、1億円以上の当選を19.5%も期待していることです。つまり元金を減らすと考えている購入者より、1億円以上の当選を期待する人の方が多いのです。

宝くじの恐ろしさは、行政がギャンブル性の実態を表面に出さず、好感度の高い俳優を宣伝広告に使って、当選額の大きさのみを全面に出しているところにあるのです。これで「国、地方公共団体等の責務を明らかにする」といえるのですから、恐ろしい限りです。

次回は、パチンコの報酬期待効果を説明します。

筆者紹介:早野慎吾(都留文科大学 教授) 神奈川県出身 専門は言語心理学、社会言語学。1992年上智大学大学院文学研究科修了。常磐大学講師、宮崎大学准教授などを経て2012年より現職。言語とパーソナリティの関係を中心に研究していたが、通勤時、立川駅前で開店前のパチンコ店に毎日のように客が並んでいる様子を見て、パチンコ関連の研究を始める。現在、パチンコを中心としたギャンブル依存問題とAIによる人形浄瑠璃ロボットに関する研究を行っている。著書『首都圏の言語生態』、『パチンコ広告のあおり表現の研究:パチンコ問題を考える』など多数。

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