2024.3.21

中途採用がより厳しい時代に突入 他業界と戦える自社の武器は何だ?

皆様が本稿をご覧になっているのは、春爛漫の頃でしょうか。三寒四温と呼ばれる気温が上下動する時期を経て、かなり暖かくなっていることと思います。

冬は寒く夏は暑いのは当然ですが、地球規模で気温が上下動していることをご存知の方も多いことでしょう。長い歴史のなかには、南極に氷がなかった温室時代や、マンモスが絶滅した原因の有力説である氷河時代もあり、大きな変化が何度もあったようです。

規模はだいぶ異なりますが、パチンコ業界の中途採用も時期や時代によって変化しています。業界独自の変化も、市場に合わせた変化もあり、いずれも生き残るために必要不可欠だったと言えるでしょう。

採用はマネーゲームからダウン提示に移行

私が就職活動したのは、「北斗・吉宗時代」と呼ばれたパチスロ4号機の全盛期。業界がまだまだ元気で、イケイケ感がありました。この頃から現在に至るまで、中途採用は人材の奪い合いの構図であり、本質的なところは変わっていません。

しかし、当時はマネーゲームの様相を呈していて、「優秀な人材はいくら金を使ってもいいから獲得する」という方針の企業が珍しくありませんでした。イベントで機種をアピールすればファンが食いつき、売上がアップし、高設定の見せ台を用意すれば周囲の低設定台も高稼働となるなど、店長の手腕で売上が変わる時代でしたから、優秀な人材を採用するのに予算を惜しまなかったのでしょう。

ところが、5号機時代になると、そうもいかなくなりました。稼働も売上も低下するなか、金に飽かせることは困難となったのです。営業戦略の変化と同時に求める人材も大きく変わり、条件提示や受け入れ方も変わっていきました。そして、主流になったのが、企業と人材双方のリスク軽減を目的とした「ダウン提示」です。

企業は、最初から高給を払っておきながら想定以下の働きだったというリスクを軽減出来ますし、求職者は強いプレッシャーがないので、新しい環境に馴染みながら上を目指せるメリットがあります。組織を壊さないために、馴染みやすい人材を採用するという側面もあり、理に適った採用手法と言っていいでしょう。

ところが、現在は時代の変化とともに、これも難しくなってきています。新型コロナ、円安、物資の不足や高騰などが絡み、業界外との競争が激化しているからです。

即戦力となるホール企業より未経験業種のほうが高給!?

最近の話ですが、中規模チェーン店で副店長を任されていた方が退職し、業界内外を問わず求職活動をしていました。選考を受けたホール企業からの提示は、「役職は主任で、給与はダウン」というものがほとんど。前述の通り、これはごく普通の提示で、驚くようなことではありません。ところが、他業界の某企業は月収40万円と、ホール企業の主任職の提示額と比べておよそ1.3倍の給与を提示したのです。

ホール企業であれば即戦力ですし、彼には結果を残す自信もあります。しかし、某企業の業界は未経験なので、勉強しつつチャレンジしようと思っていたところなのに、驚愕の提示額。心がなびかないわけがありません。

このような事例は今や珍しいものではないため、ホール企業が人材を確保するのは非常に難しくなっています。昨年に引き続き、春闘などによって賃金が引き上げられることが予想出来ますから、“パチンコ業界は高給”というアドバンテージはますます弱まるはずですし。

他業界は、以前のような「パチンコ業界出身者なんて」といった偏見がなくなり、良い条件を提示して積極的に採るという方針に変化しつつあり、求職者は条件の良い企業を探しやすくなりました。ホール企業は、時代に合わせた方向転換を迫られていると言っていいでしょう。

競り負けをしないためには人材に寄り添うことが重要

では、どうすれば他業界に競り負けずに済むのでしょうか。根本的には人材に歩み寄ること、そして競合との差別化を図ることがより重要になっていくと考えています。

例えば、ダウン提示をせず、前職と同水準の給与を担保するホール企業があります。「期待しているので、1年間は前職と同じ条件。働き方を見て、その後の査定で給与を変動させます」と伝えているのです。他業種からも同レベルの提示をされていた場合、多くの方が経験と自信のあるホール企業で働くほうが実力を発揮出来ると考えることでしょう。

ほかには、給与ではなく自社の魅力をアピールする企業もあります。「数年後には、現在の事業の柱、ホール、飲食、サウナ以外の分野にも進出する」といった展望とビジョンを具体的に求職者に伝えることで、ここで働くことの安心感や安定感をイメージしてもらうのです。提示された給料が若干安いとしても、企業そのものに魅力を感じれば、入社を決断することは十二分に考えられるでしょう。

昨今の求職者は、パチンコ業界と他業界の両方で就職先を探し、天秤にかけて入社か辞退かを決めるものです。その際に最もわかりやすく比較しやすいのが給与というだけであって、単純に高い提示のほうに入社するわけではありません。人材の求めるものに合致する提示が、競り負けを防ぐ何よりの方法ではないでしょうか。

近年、氷河期という表現は廃れつつあり、氷河時代と言うようになってきました。しかし、就職氷河期という言葉は残っています。パチンコ業界は、今や採用氷河期といっても過言でない時代に…。マンモスのような憂き目に遭わないよう、自社が取り組める採用方法を模索したいものです。

紹介:嶌田堅一(しまだ・けんいち)
キャリアコンサルティンググループ
マネージャー
大学卒業後、㈱パック・エックスに入社。人材紹介事業を10年以上経験、国家資格キャリアコンサルタントを取得。これまで2000人以上の支援を行っている経験・実績豊富なアドバイザー。

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